Race Eye
内容の濃かったベルギー&イタリアGP。可夢偉のメンタルの強さを痛感!
2012.09.20

 朝晩冷えこんだスパ、夏日続きで日焼けしたモンザ。今年最後の9月ヨーロッパラウンド転戦ではベルギーGPで名物ムール貝より鍋料理が恋しくなり、イタリアGPはパスタよりも冷やし中華。思わずそんな“秋・夏・食気分”になった。

 伝統のこの2連戦、ひとことで言って濃かった。ベルギーGP1コーナーで起きた“グロジャン通り魔”多重接触事故、誰も負傷しなかったのは奇跡に近い。加害者の彼はモンザに姿を見せたが反省の色はない様子、親しい某フランス人ジャーナリストは言った。「スズカでコバヤシのファンは生卵でもぶつけたらいい、それであいつも少しは分かるだろう」。
報道ではグロジャンが皆に謝罪したことになっていたがモンザで小林はきっぱりと否定。アロンソには仁義を切ったかもしれないがそういう態度はとっていなかった。普段おだやかな彼とはよくパリからエコノミークラスで一緒に移動する機会がある。“F1ドライバー気取り”などみせない好青年だ。あの事故の発端となったハミルトンへの幅寄せや、その後の行動は別人のようで驚かざるをえない。

 ミサイル攻撃で犠牲になった者がイタリアGPでは揃って表彰台へ。1位ハミルトン、2位ペレス、3位アロンソ、いずれもスパでゼロ周リタイアを余儀なくされた。あらためていうとスパ表彰台には1位バトン、2位ベッテル、3位ライコネンが立った。だが復活追い上げムードにのったかに見えたバトンは突然のエンジン・パワーダウンによって32周リタイア。またベッテルも47周で電気系トラブルのせいでストップ(53周の90%以上しているので完走扱いどん尻22位)。前週の1位と2位のふたりともがゼロ・レースに突き落とされた。

 この連戦ともに上位入賞で乗り切ったのは3&5位ライコネン(計25点)と、5&4位マッサ(計22点)の二人。ロータスの戦力をいかんなく発揮した“スパ王”に勝機はなかったものの、得意のベルギーGPで詰めかけた各国ファンをうならせる限界コーナーワークをしっかり見せた。モンザでもシューマッハと丁々発止のバトルを展開、順位はともかくその走りで観衆を大いに魅了したキミ。彼のロータスE20のウイークポイントを指摘すればストレートの伸び、特にDRSオン状態で“増速効果”がもう一つ、コーナーで迫っても抜けない苦しさがこの2戦で目立った。
それでも2位ハミルトンに1ポイント差の3位、V2王者ベッテル(バドミントン仲間)を4位に従えランクアップ。いまだ未勝利ではあっても第3戦中国GP14位のほかすべて入賞、中盤に入って表彰台6回はめざましいものがある。TV会見ではムニャムニャつぶやくキミも、内心では「帰ってきたら何もF1は変わっていなかった」と感じ、自己最速主義者として100%を出しきる自信を中盤から一層深めた。接近バトルでの見切りの凄さ、また決して過剰反応せずポジションを守るレース姿勢はWRC以前時代よりも潔い。グロジャンはいいお手本がすぐ近くにいるのだから、猪突猛進型から自己修正して持っているスピードをきっちり結果にまとめるドライバーに成長してもらいたものだ。

 小林がスパで予選2位、ペレスがモンザで決勝2位、ザウバー勢が話題をさらった。昨年まではどちらかと言えば“レース重視策”を採ることが多かった小林が、今年はタイムアタックで1周まとめきる能力を高めてきている。難コースのスパでマクラーレン・メルセデス相手の“PP争い”はその成果、本人は謙遜して「スーパーラップではなかった」というが大いに褒めたい。
勝負は時の運、そのベルギーGPでは1コーナー事故ダメージによって傷だらけ状態で完走がやっと。日本のファンの皆さんががっくりきた以上に、レース人生で一番悔しい一戦になった。それでもすぐモンザでは気を引き締め直して『もう過ぎたことは忘れた』という表情の彼。アスリートは気持ちをシフトチェンジし、引きずらない精神力が求められ、小林はその面で非常に強いと痛感した(余談だがロンドン五輪競泳メダリストに小林ファンが多いのだとか)。

 モンザで予選12番手からペレスが2位を勝ち得た。賞賛したいのはレース戦略上、タイヤ・チョイスが分かれた時に彼はレース序盤を耐えて走り粘る。“グリップ走法”に徹してロングランを実行、そしてピットで別のタイヤ・スペックに交換されてからは“スライド走法”に転じていく。モンザでタイヤ変調におちいったマッサ、さらにマシン・ダメージを負ってペースが上がらなかったアロンソをパス。こういう展開に持ち込めたのは運だけでなく、ペレスが<タイヤ・マネージメント能力>を身につけたからだ。その裏にはエース小林が昨年しばしば見せたレースペースの巧さがお手本になっている。若い彼には吸収力がある。

──今年50戦目ドイツGPで小林は「まだ僕にはベストレースはないです」と答えていた。たしかにそうかもしれない。可夢偉は表彰台こそペレスに先を越されたが、しかし速さの証明、予選フロントローまで運ではなく自分の力で行った。僕個人はそれがうれしい。9月13日で26歳、ベストレースまであと半歩の小林である。

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