Race Eye
「タイヤ・シンドローム」が蔓延。失望に終わったイギリスGP〜ドイツGP2連戦
2013.7.16

 「タイヤ・シンドローム」が蔓延したイギリスGP〜ドイツGP2連戦、序盤戦からめったにないタイヤ・トラブルというべきトレッド剥離事象が多発。起こるべくして起きた大事件だったと言おう。しかしこの“警告”に対して当事者ピレリも公式タイヤに認定したFIAも、のらりくらりとした態度ですぐに手を打たずにいた。そして今季最初の超高速コース、シルバーストーンではトレッド面ばかりか、タイヤそのものが縦方向に破裂崩壊(バースト)する重大事故が次々に発生した。

 レース中に起こるタイヤ・トラブルとしては、グレーニング(ささくれ偏摩耗)、スロー・パンク(エア漏れ)、ブリスター(内部オーバーヒート)などがある。これらは競技そのものに支障をきたす危険な事例ではなく、レース中にしばしばご覧になるようにピットに戻りタイヤ交換すればレース続行できることだ。

 しかしバーストは全く次元が異なる。F1に従事するタイヤマン達にとっては身を切られるような出来事。一般路上で起きたらそのメーカーは直ちに製品すべてをリコールし、場合によっては“賠償金問題”にまで発展して企業責任がマスコミから一斉に問われるだろう。表現としてシルバーストーンは“人体実験”にも近い状況と言わざるを得ず、個人的には競技中止すべきだと感じた(このスポーツに携わって全く初めてのことだ)。

 シルバーストーン以降、イタリア・タイヤメーカーのF1責任者がとった行動には失望した。コースの縁石が高いからとか(以前から一緒だ)、左右輪を逆装着し、過度のネガティブキャンバー角度や空気圧を下げ過ぎたからとか、これを許し開幕戦から黙認してきたのは貴方たちピレリだ。いまになってそれをバースト原因に挙げ、そうしたことが無ければ「うちのタイヤは全く安全」と言い切った態度は矛盾する。

であるならばなぜ、ドイツGPに急きょスペック変更したのか?

──「今回のトラブルを深刻に受けとめるともに、ドライバーやコースマーシャル及び観客に危険負担を強いたことを陳謝します。我々が調査分析したところによると、現在のF1パフォーマンスは想定以上に高まり、手もとにある“試験車(11年型ルノー)”での実走データから、さらに20%の安全係数を上乗せした基準で開発努力を続けてきましたが、高速耐久性における不具合が発覚しました。F1グランプリ競争原理を理解しつつ、2010年から安全・公平・均一な公式タイヤを準備してきた我々にとって想定外のことであります。直ちに対策すべく今後のスペックを再検討し、またそれを全チーム、全ドライバーによって“合同テスト”する機会を設けるよう、関係各位のご理解と協力を求めます。なおそれが実施される際には、(1)すべてのスペック・データを事前にチームに通達し、従来の担当エンジニアレベルのほか設計担当グループ員が対応。(2)全タイヤを工場出荷する際、“最終室内確認”を外部機関の協力を仰ぎ実行。 (3)内圧やキャンバー、排気流設定などの調整に関しては責任を持って“推奨値”を指示したく、関係各位の遵守をお願いします」──

 以上、堅苦しいステートメントにみえるが、イタリアの老舗にはこれくらいの覚悟というか、公式タイヤサプライヤーのプライドを示して欲しかった。同社は1950年F1世界選手権創設イヤーの“チャンピオンタイヤ”だ。第9戦ドイツGPで通算90勝、これは1位グッドイヤー368勝、2位ブリヂストン175勝、3位ミシュラン102勝に次ぎダンロップ83勝を超える4位になる(僕は67年型ミニMKTにピレリを愛用したユーザーの一人)。

 辛口批判に聞こえるかもしれないが、今パドックに流れているタイヤへの不満、鬱積している不信感を僕なりに代弁させてもらった。メディアの多くは先日の裁判ごとや政治的な駆け引きばかりをニュースにしているが、この問題は純粋に技術マターなのだからFIAもピレリもチームもドライバーも、それこそこのスポーツの原点に戻って足もとを見直す必要がある。その点を今回のこのコラムでは強調しておきたい。

 話をシフトチェンジする。シルバーストーンのロズベルグは、首位ベッテルが止まったあとにまたサラッと勝った。彼にはこういう勝負運があるのだろうか、父親ケケさんはもっとしつこいレースが得意だったのに息子はちょっぴり違うあっさり味。ハミルトンを出し抜きこれで2勝目だが表彰台はそれだけ、他は4位が最高。チャンピオンシップに賭ける男意気がもうひとつ感じられない淡白なニコ、母国GPでは予選で躓くと挽回するガッツに欠けた……。

 いい意味で厭らしさがますます匂うのがベッテルだ。母国ドイツで何が何でも勝ちたい意欲が1.0008秒差で強敵ライコネンを抑えきった。30勝達成レースにはいままでのようなレッドブル・ルノーのスピードにただ頼るものではない、彼の心意気が伝わった。後ろにいたのがしつこいアロンソでなく“バドミントン仲間”キミだったのは、ベッテルにすればやりやすかったかもしれないが。

 1位ベッテル157点、2位アロンソ123点、3位ライコネン116点、4位ハミルトン99点、5位ウェバー93点、6位ロズベルグ84点。全19戦の曲がり角、第9戦ドイツGPでV4目指すベッテルの34点リードは大きい。昨年9戦終了時点では1位アロンソ129点、2位ウェバー118点、3位ベッテル100点だった。この29点ビハインドをベッテルは後半戦に追い込みひっくり返したのだが、今の2位アロンソはそれよりも5点劣る。

 ベッテルが警戒すべきはもう一人、3位ライコネンだろう。今年マッチレースを挑んでくる相手にロータス・マシンがのし上がり、ニュルブルではアイスマンの猛チャージにさらされた。しつこい勝負師2位アロンソとも違うクールな3位ライコネンの追走、一発に賭ける4位ハミルトン、さらには“元チームメイト”去りゆく5位ウェバーもいる。

首位独走に見えるベッテルも暑苦しい夏がまだまだ続きそうだ。

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