Race Eye
真夏のハンガリーGPはハミルトンが失速症状を覆す今季初勝利!
2013.8.6

 真夏のハンガリー『ハミルトン&メルセデス祭り』──。
ホット・コンディションをものともせず、3戦連続PPから長い70周レースを完ぺきに走破。タイヤマネージメントに苦しんできたメルセデス“失速症状”を克服する、まさに快勝。これでシューマッハと並ぶハンガロリング最多4勝、「新ハンガロキング・ハミルトン」誕生だ!

 まずニューバージョンに変わったピレリタイヤについて。分かりやすくいえば12年デザインの内部構造(ケブラー・アラミド・ベルト、サイド剛性、ショルダー形状)に戻し、トレッド・コンパウンド部分だけ、今年のものにしたいわば“旧&新ハイブリッド”。ハンガリーGPにはソフトとミディアムの2種が持ち込まれた。しかし、当初(6月13日)の発表は「ミディアムとハード」の投。これには天地がひっくり返るくらいびっくりした。過去このコースにこのような“硬い”スペックが持ち込まれた例は無く、ミシュランもブリヂストンもずっとモナコ・ベースのスーパーソフトを常に配備していたからだ(いったいその選択根拠は何、「何かの間違い」とさえ思ったが)。

 これにはすぐにロータスが反論を行い、さらにその後はご存じのように“イギリスGPタイヤ破裂シンドローム”が発生。結局、すったもんだの末に新タイヤのSとMに変更された(この組み合わせは今年3度目で中国やドイツGPと同じ、いずれもハミルトンがSでPPをとっている)。

 相次いでスペック変更するピレリ、これが実は4度目だ。公式発表された他にも中身が修正されたことがあり、チーム側はその供給体制に不信感を抱いていた。しかし公式サプライヤーである彼らを表だって批判せず、現場スタッフらは懸命に知恵を絞り、使いこなす努力を払ってきた。たとえば左右逆装着法や、低内圧調整や、ホイールアライメント・キャンバー角設定などのほか、排気流(高熱)応用のエアロ・チューンも含め、「タイヤさまさま」でご機嫌をとりながら対応してきた(すべてP社担当者の了解のうえで)。

 そうしたチームの努力、工夫、独自のアイデアなどがこの第10戦から“旧&新ハイブリッド”バージョンに変わり、すべてやり直しに。その最たる例がフォースインディアだった。だが序盤から蓄積してきた総合セットアップの方向を、急に転換できるほどの“リソース”が中間チームの彼らになく、苦戦を強いられた。

 そんな中で7月中旬のシルバーストーン・テストにメルセデスだけ不参加、このハンデは大きいと言われた。だがそのテストで“ハンガリー用試作タイヤ”を実際に試した上位陣レギュラーはベッテルだけ。他チームは新人を起用して主にマシンのアップデート開発・対策に集中した。

 そんなことから、僕はこの三日間テストで新ピレリに対しメルセデスだけが損をして、他チームが得をしたとは思っていなかった。得をするほど、参加チームが経験あるレギュラーによってこの新ピレリの特性をつかみきれたとは言えないからだ。むしろ新人による走行データに振り回され、従来タイヤとの特性の差異を把握できずに消化不良のままハンガリーGPを迎える事態になった。

 一方不参加メルセデスには、ピレリからシルバーストーン・テストでの一般傾向が“客観データ”としてある程度情報開示された(と想像する)。実際彼らはそれを要求していた。この結果、タイヤを使いこなす方法において前半戦はライバルよりも遅れていたメルセデスだが、そのハンデがシルバーストーン・テストいったんリセットされた。その意味ではマイナスではなく“相対プラス”と見てもいいだろう。

 テスト不参加の間、メルセデスは何をしていたか? 実はW04マシンの見直しを図り、特にリアのダイナミック・ダウンフォース向上に成功していた。

 だからハンガリーでは空力面でカーバランスがまとまった土曜から、ハミルトンの走りは一変した。彼のドライビングスタイルはフロントがシャープ&クイックに反応するのを前提にコーナーに進入、そこから強いアクセルオンで抜け、リアをぎりぎりコントロールしながら脱出。前半戦この走りがなかなかできなかった。ロズベルグは乗りこなしても彼にはフィットせず、具体的にはブレーキングが課題となった。07年デビューから見てきてハミルトンがこんなに遅く感じるのは初めて、減速姿勢が崩れたままコーナリングの流れはぎくしゃく……。

 それがハンガリーGP土曜からシャキッとなった。彼のドライビングにW04と新ピレリのマッチングがぴったりシンクロしたからだ。あの予選PPアタック・ラップにはベッテルも驚き、当の本人も「ポールは信じられない」と自画自賛。チームのエンジニアたちも“データ超え”ドライバー力を再認識。いまのF1にもこういうリアルなヒューマンスポーツの魅力があるのだと、ここで言わせてもらう──。

 さて決勝レースでは、ハミルトンは70周を予選とは異なる“グリップ走法”にきりかえリア・タイヤのオーバーヒートを抑えていた。ミディアムの作動温度幅は90〜115度(公式発表値)、決勝気温は最高37度、路面は55度近くまで上昇。コーナリングが続くこのコースではタイヤを冷やせる直線が短い。そこでハミルトンは確実にリアをグリップさせ、横滑りなどで表面温度が高くなるのを避けようとしていた。このようにドライビングをチェンジできる彼とそれに応えるW04セットアップが快勝につながった。

 結果は2位ライコネン、3位ベッテル、4位ウェバー、5位アロンソ。フェラーリがレースペースで落ちていったのは今年初めての事態、この“敗北”にショックを受けたアロンソがレース後に批判的発言をしたと、ニュースが広まった。

 現場にいて僕はアロンソとマッサが誰よりも遅くまでパドックに残り、ミーティングを続けていたのを目撃している。そこでは突っ込んだ話、感情的な意見も出たと思う。フェラーリは伝統的に勝っても負けても現場で熱気が冷めないうちに、忌憚無き意見を徹底的に交わすチーム。延々とミーティングが行われ、レース約4時間後にアロンソとマッサは互いにハグして帰っていった。

 こういう姿を見ていると、噂の“アロンソ→レッドブル”、“マッサ→クビ放出”という話がどこから出てくるのか、自分には正直言って見当がつかない。この光景を目撃する前には、レッドブル代表ホーナーとニューウェイがいつもと全く変わらぬ様子で帰っていくのを見ている。もしも本当に“14年アロンソ交渉”が日曜から動き出したならば、過去の経験からしてあのようにケータイ片手にニコニコしながら二人が談笑しているはずはない。特にニューウェイは表情に感情が出るタイプだが、彼はベッテル3位入賞で首位安泰に満足しきっていた。

 ムッとしながらパドックを一人帰っていくアロンソの背中に、“怒”の文字が浮かび上がって見えるほどガックリしていたのはたしか。F138アップデートはここでも期待外れ、新ピレリになったとたんレースペースもダウン。浜島氏は一言「今は原因不明です、ファクトリーに帰って皆で究明します」、いつになく非常に重たいこの言葉がチームの猛反省ムードを表している……。

 個人的見解だがフェラーリは04年シューマッハのラストウイン以降、9年未勝利でハンガロリングに弱い。昨年も今年もエキゾースト・オフ・ブロー効率面でルノー勢に及ばず、今年はメルセデスにもこの点で差をつけられたのではないか。要は中速コースでのダイナミック・ダウンフォース不足。おそらくこれを問題視して即ハンガリーGP後、デ・ラ・ロサによる「空力特性確認テスト(風洞と実走差)」をマニクールでわざわざ11年マシンを使い、チェックしたのだろう。

 意気上がる今季1勝目のハミルトン・メルセデス、5度目の2位で追撃ライコネン・ロータスは、いい気分で夏休みへ。彼らに対し落ち目の(?)ランク3位フェラーリはモンテゼモーロ社長自らアロンソ以下チーム全員に激を飛ばし、後半戦へのモティベーションをかき立てている──。

P.S. 8月17日の第18回クロストーク・イベントに、全国F1LOVERSの皆様から多数のエントリー、ありがとうございます。局地豪雨や猛暑が続いておりますが、都内青山でお会いするのを楽しみにしています。 

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