Race Eye
“グレート・ドライバー”の域に到達しつつあるベッテル。ファンも“ブーイング”で勝利を讃える
2013.10.01

シンガポールGPでパーフェクトレースをやり遂げたベッテル、自己最高記録でV4を達成する可能性が出てきた。

2010年  V1  5勝 256点 (2位アロンソ 4点差)
2011年 V2 11勝  392点 (2位バトン 122点差)
2012年 V3 5勝 261点 (2位アロンソ 3点差)

 初タイトルの10年と昨年はともにシーズン5勝、得点も260点前後でアロンソを“僅差”で逆転した。2年前のV2イヤーが彼の自己最高シーズンで11勝は歴代2位(04年M・シューマッハ最多13勝)、392点もハイスコアだった。ちなみに戴冠したその10年からF1の得点制度が変わり、09年までの優勝=10点が25点となり、8位入賞が10位入賞に拡大されている。

 第13戦シンガポールGP終了時点でベッテルは7勝、247点。残りは6レースあり、自己最高の“11勝”を更新できる可能性も見えてきた。もし残りを全勝すればシューマッハの“13勝”と並ぶタイ記録。そうなれば150点追加によって397点(!)、再び400点台に迫る自己最高スコアになる。

 こうして見比べるといまの彼は、11年に第15戦日本GPで決めたペースにかなり近く、後半戦になって強烈なチャージを見せる。11年は第13戦終了時点で284点、今時点で247点と“37点差”だ。V4へのカウントダウンに入ったベッテル、2位アロンソはギブアップしてはいないものの、「ベッテルに不運が一度ではなく、何回も起きない限りは点……」と現状を認めている。

 パドックにいる誰もが認めるベッテルの速さ。シンガポールでもまた表彰台でブーイングが飛んだが、それは一種の”ジェラシー”のようなもの。ことさらこれを話題にするメディアもいるが、僕の実感では拍手、声援で彼の独走プレーを讃えるファンのほうが多かった。

 ベッテルの凄さを解剖してみよう。決して彼は速いマシンを楽にドライブしているのではない。あの抜きん出たコーナリング性能を持つレッドブルRB9・ルノーに対峙し続けている。速いが故に減速や加速の前後G、旋回中の横Gなど肉体に加わるストレスは激しく、またすべてのドライビング操作にハイスピードに即応した反射力、正確さが必要となる。

 たとえばシンガポールの1コーナーでは295kmhから150kmhまで減速、これを1、2秒間に実行する。そのブレーキング距離はおよそ75m、0.1秒でも狂えばマシンはコースを外れる。

 レース中に、珍しくトロロッソのリカルドが18コーナーでクラッシュした。デビューしてから彼は”自損事故”がなく、僕はそれを大いに評価していた(14年レッドブル昇格の理由でもある)。その18コーナーは210Kmhから95Kmhに減速、65m、1.6秒のブレーキングだ。リカルドはあの周わずかに高い速度で行き、ターンインが遅れブレーキをいつも以上に強く踏んだが間に合わず、直進するかっこうでクラッシュした。コンマ何秒かのズレが、このコースではああなるのだ。

 1時間59分13秒132、ベッテルは誰にも追われず孤独な疾走を続けた。無敵の彼はまさしく「自分との闘い」のなかにいて、シーズン最長ゲームの間、集中力を途切れなく持続した。肉体面も精神面もトップランナーとしてとても高いレベルを保ち、最速マシンに”負けない”人間力を貫きとおして見せたのだ。

 速いマシンはドライバーをより速くする。これはグランプリの定説であり、過去に何人もが証明してきている。V4をめざすベッテルは現在進行形で「グレート・ドライバー」の域に到達しつつある。

──日本GP・鈴鹿ではブーイングなど起きないだろう。

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