Race Eye
2015シーズン序盤戦報告「春の総集編 その2」
2015.05.06

■3月29日、第2戦ペトロナス・マレーシアGP(クアラルンプール)

桜を見る前に猛暑の陽射しを浴びた。汗かきではない自分も毎年ここで“初汗”びっしょりとなるマレーシアGP。今年はいつも以上に暑かった。BSからピレリ公式タイヤ時代に移行した11年からの、レース・スタート時の気温/路面温度はこうだ。

14年33/52度、13年24/27度(雨上がり)、12年26/29度(途中雨で中断)、11年28/31度。

赤道直下で行われるこのGPは過去10年間に“ウェットレース”が3回、“ウェット・セッション”も12回あった。今年も予選Q2からが雨で27分中断され、Q3はウェット・コンディションのなかインターミディエイトを履いたハミルトンが40回目のPPを。フェラーリのベッテルが2位を奪い、ロズベルグは3位に下がり、レッドブルのリカルドが濡れた路面で4位に進出。非力なルノーPUであってもクビアト5位、新人フェルスタッペン6位、パワーとトルクのハンデをカバーした彼らは賞賛に値する。スムーズさに難があるドライバビリティ特性を克服、17歳ルーキーが見せたウェット・ドライビングには将来性が感じられた。新人を評価するには初ウェットはうってつけだから。

太陽が真上にある午後3時スタート、気温33度、路面61度、湿度45%。ピレリにとっては初めての60度オーバー・コンディションなので、とくにリア・タイヤのオーバーヒートが懸念された(この10年間では05年バーレーンGPが最高温の42/56度)。メルセデスによると車体内部は75度以上で冷却系は120度近くて“熱限界”に近い・・・。

この超高温条件セパンでフェラーリSF−15T・060/4が地力を見せつけた。熟成されたフロント・プルロッド・サスペンションがタイヤ発熱を抑え、いわゆる“熱ダレ”を防ぎ、性能劣化率(デグラデーション)でメルセデス勢を上回った。それはとても大きい。

だがこのタイヤ要因ばかりが名門復活Vの「勝因」ではない。見逃せないのは移籍2戦目ベッテルの全力走行だと僕は思う。ゴールした彼は体力を消耗していて足元がふらつく場面もあった(レッドブル時代には見たことない)。レーサーとして完全復活したベッテル、チェッカーフラッグまで体力を支えたのは精神力にほかならない。心・技・体のベストハーモニー、こういう人間力も「タイヤ戦略」ばかりでなくクローズアップされていいはずなのだが・・・。

完走は15台、マノー・マルシアが今季初めてゴールまでたどりついた。“市民ランナー”がオリンピック・マラソンで有名選手に混じり、自己ベスト記録で完走したのに等しい(昨年PUと中古シャシーなのだから)。

2戦目のマクラーレン・ホンダ勢はバトンがターボ、アロンソがERSの不具合でリタイア全滅・・・。「この暑さで完走できるかどうか・・」と聞いていたものの不安が現実の結果に。せめてもの救い(?)は耐熱実験走行を通じ、現在のマシン&PU限界域が途中経過データとして残されたこと。二人の元王者たちは汗だくで戦うこともないままあっさり終えた。どんなに悔しかったことだろう。こういうレースを“チャンピオン”にさせてはいけない。昔A・セナに「ナンバーワン・エンジンをつくるよ」と言い続けていた本田宗一郎さん、もしここにいらっしゃったら土下座したのではないか。

ここだけの話。終盤48周目、現地4時32分から我々の放送席にあるすべてのモニター画面がダウン。何も映らなくなりその状態がずっと表彰式まで続いた。僕のマイク・スイッチは切られ、スタッフが復旧を急ぐ間は邪魔せぬよう立って外を目視するほかなかった。日本には問題なくOAされているのだから、情況を言うのはさし控えた(有料放送番組なのに誠に申し訳ありませんでした)。

浜島さんがCS中継ゲスト解説に加わったこのレース、13年スペインGP以来のフェラーリ勝利はめでたいこと。辞めたばかりのOBとしてはちょっぴり複雑な気分(?)もあったかもしれないが待望の222勝目ですから。

戦い終えて陽が暮れた夜、やっぱりサンダーストームがきた。ころころ変わる現地の天候に慣れてしまい、傘もささずにプレスパーキングへ(12時間以上前に停めた場所が分からなくなりウロウロ)。さてホテルに戻ったら深夜ルームサービスで“ナシゴレン”でもオーダーしようか。空きっ腹にはきっと美味いに違いない。

■4月12日、第3戦中国GP(上海)

イベント・タイトルスポンサーがなくなってしまった。昨年まで“USB銀行”がついていたのに気になる。上海で中国GPが始まったのは2004年、当初はそれなりに観衆がいたが実は“企業接待”やわけあり(?)の動員だった。それでも回を重ねるうちに若いファン層が増え、たぶんリッチな家の少年少女だろうが“追っかけ”がパドック内に押し寄せるようになった。

彼らは空港やホテル、レストランにも先回り、ポップスターを追いかけるようにライコネン、ハミルトンをフォローする。いいことだと思う。今年はスタンドに各国旗や応援垂れ幕がいっぱい、サーキット周辺には“偽物グッズ屋”が多く、そこではフィンランド国旗などが売られている(僕も偽物のキャップ、Tシャツ、双眼鏡や傘、ヘンな弁当まで売りつけられた)。まわりにいる公安(警察官)ものんびり見て見ぬふり。だから金曜FP2で“侵入者”がコース横断できたわけだ。FIAはもっとしっかり彼らを指導する必要がある。

PP+独走+最速ラップ、またもハミルトンのハットトリック。表情に自信がみなぎっている(過信ではなく)。30歳になったルイスは変わり、今はレースに120%集中できている。そこがロズベルグとの決定的な差。

パドックでのニコは強気を装い、コメントもそうだ。でもしかめっ面をこっそり見せ、苦悩のほどがうかがえる。今が10年のキャリアでいちばんつらい時期かもしれない。

ありったけの勇気をふりしぼった予選アタック、しかしハミルトンに0.042秒負けた。僅差だけに“惜しい”がこの小差はニコにすれば限界を極めたあげくの差だ。「またやられた」、3戦連続KOタイムショックは初めてと言ってもいい。

56周レースをリードしたのは、ハミルトン1〜13周目、ロズベルグ14〜15周目、ハミルトン16〜33周目、ライコネン34周目、35〜56周目ハミルトン。マレーシアGPでフェラーリにしてやられた彼は気を引き締め、メルセデス・チームは多くの大物アップデート(前後ウイング、フロアなど)を前倒し投入。タイヤ比較チェックも入念に行い、万全な警戒態勢をしいた。これは現場オペレーションを仕切るP・ロウの“慎重さ”のあらわれ、古巣マクラーレンは有能な人材を失った

やられたら即やり返す。ハミルトンとメルセデスの強さが際立った中国GP。序盤戦の「キー・レース」だった。

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