Race Eye
“劇戦”の末、遂に銀の矢が折れたハンガリーGP
2015.08.04

ハンガリーGP表彰台にメルセデス勢不在、ベッテルがフェラーリ2勝目を、レッドブル・ルノー勢が2&3位に。シーズン前期をしめくくるレースは「夏の“劇戦”」だった。 

勝負の分岐点、ロズベルグは的をチームメイトのハミルトンに絞り込み、42周目に同じミディアムを選択。この行動がクローズアップされたけれども決して“無謀”なミスだったとは言いきれまい・・・。

この日は土曜から24時間で気温が10℃、路面温度は実に15℃下がった(スタート時は22℃/40℃)。猛暑日が一夜で秋に変わったのだ。この落差によってマシンのダウンフォース特性は低下、タイヤ・マッチング度合にも影響が出てカーバランスが変化。ハミルトンはルコネサンスラップ中に「異様にリアが滑る」と訴え、1時36分にピットガレージでセッティング調整。その前、ロズベルグも同じようにピットに戻っている。そこでメルセデス勢が何を調整したかは不明だが短時間にできる限りのことはやったのだろう。

そしてスタートへ。だが8位マッサが所定位置につけず“やり直し”、昨年開幕戦のようにエキストラ・フォーメーションラップとなる。70−1=69周レースだ。

彼ロズベルグのスタートそのものはハミルトンほど悪くはなかった。前夜の雨で路面ラバーは洗われて偶数列イン側のハンデは若干減った。だが二人を出し抜くダッシュをフェラーリ勢が決め、もみあいのままセクター2へ。シケイン進入で彼はセンターラインをキープ、左のハミルトンはアウト側のオフラインで減速しきれずに避難路へ逃げた。ロズベルグは3位、大敵は10位転落、即座に計算すると17点差が“3点差”に・・・、69周レース先は長いが主導権を握った。ここから二人の「心理ゲーム」が始まる。

優位に立ったロズベルグがしばらく2位ライコネンの背後に従っていたのは、燃料満載状態で無理追いすればタイヤを消耗する。軽くなってから攻撃に転ずる考え方だった。敵はまだ10位のまま、戦況を冷静に読んだ展開だ。ところが10周過ぎからライコネンのペースに追従するどころか離され始めた。とくにセクター2で土曜までのグリップが感じられず、15周目には6秒も遅れてしまう。怖れていた事態だ。コンディション急変によってソフトが機能せず、攻撃どころかついてさえいけない・・・。

「今日このソフトは合わない、次はミディアム」と判断。一方ハミルトンは焦りながら強引に前車を抜き、20秒後方まで挽回中。「まずい、絶対ミディアムでいくしかない」──。20周目に2秒8で交換、敵はその前にソフトに交換、4秒1かかった。

中盤からレースの流れは激流のように変わる。ミディアムに換えてもフェラーリ勢とのギャップは縮まらず、ソフトでつないだ敵が縮めてくる。序盤の展開では“17点差”を削る絶好のチャンスと思われたがじょじょにピンチ局面に。

考えながら走るタイプ=ロズベルグ。次の手をどうするか。ハミルトンはソフト→ソフトでつないだのでミディアムにせざるを得ない。自分はソフト→ミディアムできたので二者択一できる。

TVでOAされるのはすべての無線交信ではない。遅れて流れる“時差”もある。考えるタイプの彼はピット側とおそらく頻繁にやりとりを交わした(と思える)。選択条件は単純ではなかった。残り周回数が少なくなればソフトでカバーできるが今日のコンディションだとバランスに難がある。ミディアムならばより周回数をカバーできるはずだが、第2スティントのペースはソフトの敵に対し見劣りした。いったいどっちだ(?!)。

迷った時には敵と同じ作戦を選ぶこと。一見消極策に見えてもさまざまな条件・状況・知見を総合すればこれは“セオリー”。優位でなければ敵と違う作戦でギャンブルする手もある。でもそうではない、7秒リードがロズベルグにはあったのだから。

「ルイスと同じミディアムを」と希望した直後にレース展開が急変。42周目に1コーナーでヒュルケンベルグがウイング脱落トラブルでクラッシュ。新ルールの強制スロー間隔維持“VSC”走行が、あのモナコGPに次いで適用された。

残りは69―42=27周。ソフトで約120Kmをカバーするのは限界ぎりぎりだ。チームメイトはミディアムしか選択できないのだから自分も同じにし、周回数がリスキーなソフトでなくイコール条件で勝負しよう。これは“弱気”でも“消極的”でもなく、3位を維持している者の判断として決して“無謀”とは言えまい。

しかしあえて指摘するなら、翌周からセーフティーカー先導となり、そこでフェラーリ勢がピットに入ったのと同じ動きをとっていたらどうだったか?

結果論になってしまうがこのスロー走行時間にピットはソフトを準備でき、(残り周回数は少なくなる)しかもコース上の残骸パーツ処理に時間がかかりそうで、全力走行周回数も減る。惜しまれるのはもう1周待つ、“判断の猶予”でなかったか。ソフトを履いてSC隊列走行後の22周スプリントならば、ロズベルグは全力モードで首位ベッテルに迫れただろう。たとえ抜けずとも2位18点ゲット、ハミルトンは7位(6点)以下、両者の差は第10戦時点で<5点差>に接近したかも・・・。

夏の嵐ハンガリーGPの結果、1位ハミルトン202点、2位ロズベルグ181点、3位ベッテル160点に。3人は等間隔の“21点差”、はさまれたロズベルグはハミルトンにはギャップを広げられ、背後ベッテルは近寄られた。いわば『ゲーム差ゼロ』、15年チャンピオンシップ戦線は夏休みを前に狭まった。新PU時代ずっと飛んできた“メルセデス銀の矢”が遂に折れた、30回目ハンガロリンクの「劇戦」であった。

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